仮説がないデザイナーは、ただの作業者──「言われたから作りました」から抜け出す方法
前回まで、「解くべき問い=イシュー」の話をしてきました。今回はその次のステップです。
イシューが決まったら、次に必要なのは仮説です。そして、ここが作業者と提案できる人を分ける、いちばん大きな分岐点になります。
納品直後には、差が見えない
2人のデザイナーが同じLPを作ったとします。見た目の完成度もほぼ同じ。クライアントの反応も「いいですね」で同じ。
差が出るのはその次です。
1ヶ月後、クライアントから「思ったほど数字が伸びなかった」と言われる。このとき、片方はこう答えます。
「そうですか……。どう直しましょうか」
もう片方はこう答えます。
「ファーストビューで価格を出したのは、検討段階の離脱を減らす狙いでした。そこが効いていないなら、離脱は価格ではなく信頼の部分かもしれません。導入事例を上に持ってきて試させてください」
次の仕事が来るのは、後者です。能力の差ではありません。作る前に仮説を立てていたかどうかの差です。
仮説とは「こうすれば、こうなるはず」の一文
難しく考える必要はありません。仮説はこの形で書けます。
【誰が】【何で】つまずいているから、【どうする】と【どうなる】はず
例を挙げます。
- 初めて訪れた人が、料金が分からず不安で離脱しているから、ファーストビューに価格帯を出すと、問い合わせの質が上がるはず
- スマホで見た人が、申込ボタンを探せていないから、追従ボタンを置くとCVRが上がるはず
- 比較検討している人が、他社との違いを判断できないから、比較表を入れると滞在時間が伸びるはず
この一文があるだけで、デザインの一つひとつに「なぜそうしたか」の説明がつきます。
仮説がないと、何が起きるか
仮説のない制作には、致命的な問題が3つあります。
1. 検証できない
「なんとなく良さそうだから」で作ったものは、結果が出ても出なくても理由が分かりません。数字が上がっても、何が効いたのか説明できない。
2. 改善できない
検証できないので、次に何を直せばいいかも分かりません。結果、クライアントの「なんか違う」に振り回されて、当てずっぽうの修正を繰り返すことになります。
3. 再現性がない
そして一番きついのがこれです。たまたま当たった案件があっても、次に活かせません。毎回ゼロから運任せ。何年やっても、仕事が安定しない人はここでつまずいています。
提案の場で、仮説をどう言葉にするか
実際の打ち合わせで使える言い回しを置いておきます。
ヒアリングのとき
「今、いちばん多い離脱はどこか分かりますか。もし分からなければ、こちらで仮説を3つ立てて、優先順位をつけてご提案します」
データがなくても構いません。「仮説を立ててから作ります」と言えること自体が、他の見積もりとの差になります。
提案のとき
「この構成にした理由は3つあります。1つ目は──」
デザインの説明を「かっこよさ」ではなく「理由」で始める。それだけで、価格の話が中身の話に変わります。
納品のとき
「この3つを狙って作っています。1ヶ月後に数字を見せていただければ、どれが効いたか一緒に振り返りましょう」
この一言が、次の仕事の入り口です。振り返りの約束は、実質的に次回の打ち合わせのアポイントになります。
外すことを怖がらなくていい
仮説は外れます。外れて当然です。
大事なのは当てることではなく、外れたときに「なぜ外れたか」を語れることです。それができる人は、案件を重ねるほど精度が上がります。仮説を立てない人は、何件やっても最初と同じ場所にいます。
そしてクライアントから見ると、外した理由を説明できる人のほうが、当てずっぽうで当てた人より信用できます。
まとめ
イシューの次に来るのは仮説です。「こうすれば、こうなるはず」の一文を持って作る。それだけで、検証できて、改善できて、再現性が生まれます。
言われたから作りました、から抜け出す最短ルートがここです。
次回予告|第4話「イシュー度 × 解の質」のマトリクス
次回は、『イシューからはじめよ』の核心である2軸のマトリクスを紹介します。
縦軸に「イシュー度」、横軸に「解の質」。この図にデザイナーの仕事を置いてみると、残酷なことが1つ見えてきます。
スキルアップは「解の質」を上げる行為でしかない、ということです。イシュー度の低い仕事――たとえば誰でも作れるバナーの量産――を、どれだけ高品質に仕上げても、単価の天井は変わりません。
ではどうすればいいのか。イシュー度の高い仕事を選び取る目を、どこで養うのか。次回はそこを扱います。